定年間際のある日電車に乗ると，４人掛けの座席に女子高生が一人。その向かいに腰掛けた。
すると，そのＪＫはやおら私の座席に靴のままの足を乗せてきたではないか。そして間を置いて顎を私に突き出してきた。
「しまった」と思った。明らかなヤンキーの動作だ。何か気に障ることをしただろうかと，思う間もなく私の口は「ああー靴のまま足を掛けると，座席シートが汚れるじゃあないか」と反応した。
すると，通路向かい側の座席にいたＪＫ３人が，立ち上がった。仲間だ。というか３人は手下だ。姉御の座席に私が傍若無人に座ったのが，怒りの原因であることをやっと理解した。
そんな緊張下において，私の頭は羊の草食み光景を思い浮かべていた。
羊は下顎にしか歯がなく，上あごには歯がない。くわえた草をちぎる時は，顎を瞬間的に前に出して下顎の歯でちぎるのだ。
これを眺めていた少年れいほうは，しょっちゅう顎を突き出して喧嘩を売ってくる羊さんは「なんだよ」と言っているように感じた。
馬はその反対で，上あごの歯でちぎるから，しょっちゅう「うん，うん」とうなづいてくる。「あのね聞いてくれる」と話しかけると「うん」，「おかーちゃんはあんなことで怒らなくていいよね」「うん，うん」，「おいらのこと好き」「うん，うん」，「しばらくここにいていい？」「うんうん」。
馬は話を聞いてくれるお友達，羊は喧嘩の挑発。だからジンギスカンは食らってもいいのだっ。
はて，なんの話をしておったかいのう。
